階段は、単なる上下階の移動手段にとどまらず、 空間構成の中で極めて重要な役割を果たしております。 視線や光の導線、動線の交差、空間の奥行きなど、多くの要素に影響を与える建築要素のひとつです。その形式には、直階段・折り返し階段・螺旋階段・スキップフロア型などさまざまなバリエーションがございますが、 構造的な合理性だけでなく、空間体験の質をどう設計するかという視点が求められます。 私たち中村建築研究室では、階段を「空間の骨格」として捉え、素材・寸法・配置・階段下の空間利用などを総合的に検討しております。 たとえば、踏板にスリットを設けたスチール階段は光を階下へ導き、木と鉄を組み合わせた階段では温かみと緊張感の共存を図っております。 また、本棚と一体化した箱型階段など、建築と家具の境界を曖昧にする試みにも取り組んでまいりました。 階段の設計は、単なる動線計画にとどまらず、空間構成力そのものを問う行為であると考えております。 今後も、空間に動きを与え、豊かな建築体験を生み出す要素として、階段の可能性を探求してまいりたいと存じます。